このご夫妻はご宿泊中、特にのれんに興味を示され、私にのれんを売っている店はないかと何度か尋ねられました。そう聞かれても、適当なのれん屋さんは思いつきませんでした。
お二人と街歩きしていると、いくつかの店の前に立ち、「こんなのれんがいい」とお二人は、指を差されました。それは、白地の生地にシンプルに店の名前が入ったものでした。うかがえば、スイスのお住まいに、オリジナルののれんを掲げようというお心積もりのようです。
(京屋染呉服店さんで花嫁のれんなどを見せてもらいました)

何とかお二人の願いをかなえてあげたいなと思いながら、尾張町界隈を歩いていると、染め物屋さんが目に留まりました。そこは、京屋染呉服店さんでした。思い切ってのれんをくぐりました。
「ごめん下さい」と中に入ると、店のご主人が出て来られました。ご主人に来意をお伝えすると、ご主人は「うちはオーダーのものを作っているんでねー」と困惑した表情を浮かべて、話されました。
そして「(のれんの)問屋さんには、いろんなのれんがたくさんあるかもしれないけれど」と付け足されました。
でも、そのご主人は、海外のスペシャルなお客さんには、スペシャルなおもてなしをして下さいました。お店にある、いくつかの花嫁のれんを見せて下さったのです。
花嫁のれんは金沢では婚礼の際、お嫁さんが花嫁道具として持参したそののれんを嫁ぎ先の入り口に吊るし、そこをくぐるという、しきたりで使われるもの。
目の前で披露された、その花嫁のれんには、松竹梅など縁起の良いものが描かれていました。
ご主人は、さらに婚礼に用いる風呂敷や袱紗(ふくさ)も広げて見せて下さいました。鶴などが描かれ、いずれもきらびやかな装飾が施されていました。
私たちは引き込まれるようにご主人の話に聞き入り、金沢に古くから伝わる雅な世界の中に入り込んだような感覚になりました。
(朝食で「宝の麩」を楽しまれるスイス人のご夫妻=写真掲載了解済)

(お湯を注いで出来上がった「宝の麩」)

朝食も金沢ならではのものを
スイスのご夫妻は、食の面でも独特の金沢体験をされました。ひがし茶屋街を歩いた時、加賀麩の老舗・不室屋さんに入り、汁物の材料「宝の麩」を買われたのです。
あかつき屋での朝食。その宝の麩は、まずお椀に添付の昆布だしか味噌を入れ、そのお椀に、ふやきをいれ、その皮の中央に穴を開け、そこにお湯をそそいで作るもの。
その手順でお吸い物を作ると、ふやきの最中から、乾燥した野菜などの具が花びらのようにぱっと出てきました。
ご夫妻はこれを見て「アートだね」と印象を話され、スーパーで買ったおにぎりと、しば漬けなどとともに、朝ごはんを楽しまれました。
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