
剪定作業をお願いしたのは、約20年のお付き合いがある加賀市在住のSさん。Sさんは今年、公務員を定年退職されましたが、造園や植物等にめっぽう詳しく、この方面の「名人」「博士」と言ってもいいほど、造詣が深い方です。
Sさんによると、この松は庭の主木で、庭全体を支配している位置づけにあるそうです。その松が、手入れされない状態がずっと続いていたので気になり、今回Sさんに剪定をお願いしたのでした。
Sさんは学生時代は、アルバイトで植木の剪定などの庭仕事をしていたほどで、造園に関してはプロ級の腕前。この日は高さ8㍍ほどの松の木をするすると上がり、手際よく枝を刈りそろえました。これから冬に向かうので、Sさんは「光合成がしやすいように、剪定は6割ほどにとどめた」そうです。
(頭の部分が切られた松。人におじぎする形になっている)

「この町家に哲学がある」
また、Sさんは「この家と庭には哲学がある」とのこと。その一つとして、今回剪定した木の手前にある低い松は、頭の部分が切ってあるのだそうです。私も、その点が前から不思議であり、不恰好に見えたのですが、これは意図されたもので、縁側から松を見る人に「いらっしゃいませ」とおじぎをしている形になるのだというのです。
主軸となる幹が途中でちょんぎられた格好ですが、上部の1本の枝が、縁側に向かって伸びています。確かに人を歓迎するような姿と言えます。
一見しただけでは気がつかないのですが、この町家には、初めに建てた人の独特のこだわりが隠されています。この家に益々興味をもつと同時に、当時の人の「粋」や「美学」というものを感じずにはおれません。
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