もやい展に合わせて全国各地からあかつき屋にお越しになった作家さんやスタッフの方々。その中に、筆舌に尽くしがたい体験をしながらも、それを絵本にまとめ、出版されたお客様がいらっしゃいました。
その方は堀川貴子さん(65)です。堀川さんは福島原発に近い浪江町出身で、原発事故までその町に住んでいらっしゃいました。しかし、事故後、着の身着のまま自宅を後にし、埼玉県を経て、現在は静岡県富士市に住んでいらっしゃいます。
もやい展では、スタッフとして参加され、あかつき屋ではお料理担当として、出品作家さんらを支えておられます。
(原発事故後の一家の物語を絵本にされた堀川さん)

一昨日、堀川さんは、こうおっしゃいました。
「私、(原発事故後の)この体験を絵本にしたんです。ご主人が興味をお持ちなようなので、(静岡の)自宅から送ってもらいますね」
そして、届いた絵本を見せて下さいました。「手紙 お母さんへ」というタイトルで、古里・浪江町で飼っていた愛犬ゴールデンレトリバー「桃ちゃん」の目から見た堀川さんのご家族と周囲の物語でした。
(塾の子らにも愛された桃ちゃん=絵本から)

(原発事故後、自宅に別れを告げる堀川さん=同)

堀川さんは、ご主人の文夫さんが浪江町で長年学習塾を営んでおられました。絵本は、堀川貴子さんが文章を書き、絵は、堀川さん夫妻や息子さん、そして浪江の学習塾の卒業生らと、避難先で開いた富士市の塾の生徒さんら19人が描きました。
クレヨンなどで描かれた絵は、タッチは多少違っていても、どれも温かみのあるもので、見ているだけで気持ちが和みます。
物語は、愛犬桃ちゃんが堀川家の一員になったところから始まり、多い時で70人を数えた塾の生徒さんらとの交流、そして原発事故を経ての富士市への避難、そこでの暮らしなどが綴られています。
だれも経験をしたことのない出来事の数々、避難先での生活の難しさ、塾の教え子たちのけっして楽でない毎日などが、素直な文章で描かれています。
「避難先でのストレスがたまったんでしょうね」。堀川さんは、その異郷の地で、愛犬の早すぎる死とも直面しました。
でも、そうした苦難も、悲壮感あふれる文章で書かれるのではなく、きれいで、淡々とした調子でしたためられています。物語はハッピーエンドで終わっているのではないのですが、読後は、どこか素直な気持ちにさせられるのです。
よく言う「まさか」の「坂」を身をもって味わった堀川さん。でも、ここあかつき屋では、そんなことを微塵も感じさせず、明るく立ち居ふるまっておられます。3.11後の道程はけっして平たんではないにもかかわらずです。
そんな堀川さんの温かな視線を背中に受けて、もやい展に出品されたアーティストの皆さんは、今日もあかつき屋から会場の金沢21世紀美術館へ向かわれました。
(ご夫妻と桃ちゃんを描いた作品のそばに立つ堀川さん)

その堀川さんにとって、うれしいことがありました。あかつき屋にお泊まりになった作家さんが、堀川さんご夫妻と桃ちゃんが一緒になった様子を作品にして下さったのです。
布地にその姿を描いた作品は、何とも温かく、微笑ましい。見る人も思わず笑みがこぼれます。
様々なドラマを織り込んだ、もやい展。その力作とともに、そうしたエピソードも来場者に知ってもらえればと思ったことでした。
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