父親が、娘の誕生を心から喜ぶ気持ちが、ひしひしと伝わる雛人形と出会いました。今から90年余り前、その父親が手作りしたお雛さまです。木で組み立てられたそれは、派手さはないものの、施された色は、今も色あせておらず、朽ちた感じはありません。
その一対の雛人形、そのご家族、ご親族のかけがえのない宝物になっており、今年もこのお雛さまを飾り、桃の節句を迎えられます。
(清水家の先々代の鉄男さんが手作りされたお雛さま)

このお雛さまを作られた父親がおられたのは、実はあかつき屋の隣家の清水さんのお宅です。
清水さんの今のご主人のおじいさん(故人)は生前は、お寺の庫裏なども設計施工されるほどの腕の立つ大工の棟梁で、隣家であることから、このあかつき屋の町家も造られているのです。
清水さんのご主人は、直接的におじいさんの思い出はないそうですが、現在の洋風のお住まいや、椅子などの家具類も自ら手がけられたところから推察すると、当時のトレンドも理解されて建物に独特の意匠を凝らすなど、「なかなかおしゃれなところもあった」(清水さんご主人)ようです。
(腕の立つ大工の棟梁だった清水鉄男さん)

そうした点は、今はゲストハウスに生まれ変わったこの町家でも感じるところで、建築の専門家の方々も来訪されると、柱や腰板、窓、天井など様々な点で、材料や工法等において、手がかかっていることを指摘されます。
この手作り雛人形の存在は、お隣の清水さんのお宅とのお付き合いで知ったのでした。
現在のご主人のおじいさんは、「鉄男」といい、鉄男さんが初めての娘・「和枝」さんの誕生を喜び、自ら材料を準備し、お雛さまをこしらえられたのでした。
おじいさんお手製のお雛さまについて初めて話をうかがった時、木地がむきだしの極めて素朴なものと思っていたのですが、実際に拝見させて頂いたところ、雄雛、雌雛にそれぞれ着色されているせいか、地味な感じはしません。
ついたての裏面には、「大正9年 父(鉄男)が作成」と毛筆で記されています。
そして何より、微笑を浮かべている、そのお雛さまの表情が、見る者の心をなごませ、いつまでも見入っていたくなるのです。
親が子を思う純な気持ちが、これほどまでに分かるものはなく、見る者は、生を享受した者の意義にまで思いを至らせ、謙虚に初心に返らせてくれるのです。
鉄男さんの娘の和枝さんは、今年92歳になられます。残念ながら、ご高齢のため今は、病院で晩年を過ごされています。それでもこの時期、父親が作ったお雛さまのことは承知していることから、家族がそのお雛さまのことを話すと、表情を緩められるそうです。
この雛人形、言うまでもなく、清水さんご一家、ご親族の心のよりどころであり、誇りにもなっているようです。
そして、私たちは、そんな腕の立つ大工さんだった鉄男さんが建てたこの町家に住むこと自体が大いなる喜びであり、この町家については、その造りの良さだけでなく、作り手や、これまで住まわれた方のお気持ちも、お泊りの方々にお伝えできればと思っています。
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桃の節句を祝う、お雛さまって、いろんな種類があるんですね。今、あかつき屋には、色鮮やかな様々なお雛さまが飾られています。
布地を縫ったものがあれば、貝殻を布でくるんで作ったものや、折り紙や陶製のもの、ちぎり絵になったものなどバラエティ豊か。どれも見ていて飽きません。
お雛さまは各部屋に置いており、あかつき屋は、さながら雛人形の館になっています。
(Hさんのお母様が作られたお雛さま。丹精した逸品に感謝です)

ゲストハウスへとリニューアルしたこの町家には、私たち家族以上に周囲の人たちが思いを寄せて下さり、町家にふさわしいだろうと、様々な贈り物をして下さっています。
お雛さまはその代表格で、オープンと相前後して友人、知人の方々が様々なお人形をプレゼントして下さいました。
毎日のように雪が降り続いた時期は雪かきに追われ、雛人形をゆっくり見る暇がありませんでした。
しかし、青空が広がったここ数日は、少し余裕が生まれ、改めてお雛さまを眺めてみると、素材ばかりでなく、その表情も、ほのぼのとしたのや、りんとしたものなど様々です。
日本には、心にしみる伝統文化があるのだなと、新たな発見をした気持ちになっています。
妻の友人のHさんが贈って下さったのは、Hさんのお母様が手作りされたお雛さま。一種類は、布地を手縫いしたもので、もう一つのものは、だ円形の貝殻を布でくるんだもの。
それぞれに味わいがあるのですが、何より感心させられるのは、手指の先まで心を注いでいるせいか、細部まで美しい仕上がりになっていることです。
趣味の域を超えた熟練の技に、敬意と感謝の念を抱いています。
(I澤さん、I橋さんが贈って下さったお雛さま)

私たち夫婦の友人のI澤さん、I橋さんのお二人は、ぼんぼり、屏風付きの雛人形を開店祝いに下さいました。人形はモダンな色合いで、現代的な気品があります。
このほか、雛人形がお手玉になっているのや、陶器でできており、揺らすと中に入っている鈴が鳴るものまであります。
私は、雛人形と言うとまず段飾りを思い浮かべるのですが、こんなにも種類が豊富で、細やかな工夫がされたものがあるとは、知りませんでした。
これらのお雛さまにより、この町家に愛らしさと、気品と瑞々しさが醸しだされており、贈られた方々に心から感謝申し上げます。
金沢の伝統のお菓子・金花糖も上がりの間の小机には、お雛さまの隣に、桃の節句を祝う金沢の伝統のお菓子・金花糖を置いています。金花糖は、鯛をかたどっており、鯛の表情がどこかユーモラスなのが、部屋の空気をなごませています。
(鯛をかたどった金花糖)
この週末、あかつき屋を利用される二組のお客様グループがあり、お世話させて頂きました。
いずれのグループも、当館のセールスポイントである一階コミュニティルームの大きな掘りごたつを使って時間を過ごされました。気持ちがなごむのか、お客様の話は尽きず、改めてこの掘りごたつを作って良かったと、しみじみ感じたことでした。
1階コミュニティ・ルームの掘りごたつは、8人はゆうに入れる大きなもの。この部屋、何と言っても掘りごたつが名物なので、内輪で「掘りごたつ部屋」とも呼んでいます。
この掘りごたつ部屋を独占するには、あかつき屋の客室を全室貸し切る必要があります。
1月末にこんなお客様がありました。この掘りごたつ部屋を自由に使うため、東京の機転の利いた若者グループは、あかつき屋がオープンするやいなや全室貸切の申し込みをされました。お越しになった当日は、おしゃべりや会食などで心おきなく「掘りごたつ部屋」で過ごされました。
今日チェックアウトされたのは、地元金沢の建築業界関係の10人ほどの若者グループでした。仲間の女性の誕生祝いも兼ねて、全室貸切で泊まられました。
(この週末に泊まられた若者グループ。「世界の料理」をテーマに、料理持ち込みでメンバーの誕生日祝いを兼ねたお食事会をされました=写真掲載了解済み)

「世界の料理」をテーマに、料理やお酒は、持ち込み。メニューは、お寿司あり、カレーあり、唐揚げありと実に様々。お泊りですから、時間を気にする必要がなく、掘りごたつ部屋で心からおしゃべりを楽しんでおられました。
翌朝、町家で泊まった感想をお聞きしたら、「みんなで掘りごたつに入っておしゃべりしていたら、大家族のようでした」とか、「町家は寒いと覚悟していたけど、暖かくぐっすり眠れました」「友達が金沢に来たら、この町家を紹介したい」などとおっしゃって下さいました。
ありがとうございます。準備した甲斐がありました。また、来て下さい!
お鍋宴会も楽しくこの建築家グループがお越しになった前日には、別の8人ほどのグループが材料持ち寄りでお鍋宴会をされました。
(お鍋宴会で並んだ料理)

2つの鍋を掘りごたつのテーブルに並べ、わいわいがやがやと語り合いながら、旧交を温められました。
掘りごたつには、鍋料理が似合う!
味覚、臭覚だけでなく、視覚にも心地よい風景でした。
3連休の最終日、「兼六園ライトアップ~冬の段~」に出かけました。スポットライトに照らされた松やことじ灯籠は、その美しさに言葉を失うほどでした。
名松の数々に円すい形に張られた雪つりは、雪から枝を守るためというよりは、この日のライトアップのために施されたように見え、光で浮かび上がった姿は、この世のものとは思えないほど幻想的でした。

3連休の期間中、あかつき屋を訪れたお客さんの多くが兼六園ライトアップに訪れ、口々に「素晴らしかった」と興奮気味に話されたので、私もお客様をお見送りした今夕、その催しに足を運んだのでした。


3連休の最終日のためか、あかつき屋のお客様が訪れた日ほど混み合っておらず、比較的落ち着いてライトアップを見学することができました。
訪れた時間帯は、ちょうど小雪が散らついており、揺らめきながら落ちてくる雪は、光に照らされ、ダイヤモンドダストのように、きらめいていました。そんな小雪の背後に照明で浮かび上がる唐崎松などの名木は、冬の寒さを感じさせないほどに明るく輝き、ふだんの数倍もの存在感がありました。
乱れのない雪つりを身にまとった名松群は、記録的な大雪に見舞われたこの冬を乗り越えて、誇らしげでもありました。
あかつき屋の上がりの間に花嫁のれんを飾りました。実家の母が嫁入りした時に持参したものです。題は「高砂」で、母の実家の家紋のほか、松竹梅や鶴亀など縁起の良いものが描かれています。
お部屋には、晴れやかな雰囲気が漂うとともに、厳粛なものも感じました。
(母が持参した花嫁のれん)

花嫁のれんは、幕末から明治時代初期の頃に能登、加賀、富山において庶民の生活の中から生まれたのれんです。
花嫁が嫁入りの時に、花嫁のれんを持参し、花婿の家の仏間の入り口に掛けられるものです。花嫁はのれんをくぐり、先祖の仏前に座ってお参りしてから、結婚式が始まります。
今日あかつき屋に掛けられた母の花嫁のれん、実は私、初めて見ました。60年近く経っている割には、保管の仕方が良かったのか、新品同様の真新しさです。
松竹梅などのほか、友白髪の老夫婦が穏やかな笑みを浮かべてたたずんでいる姿が描かれています。
(花嫁のれんに見入るお客様のご夫妻)

花嫁のれんを飾った時、たまたま首都圏から来られたお客様のご夫妻が居合わせました。
ご主人が「朝日があるので、あかつき屋にぴったりだね」とおっしゃると、笑いが。
奥様は「いつまで見ていても飽きませんね」とちょっぴり神妙な感じでおっしゃいました。
母の花嫁道具の一つとも言える花嫁のれんが、いま町家ゲストハウスでお客様を迎える役割を果たすことに。
そのめぐり合わせに、深い感慨を覚えました。
立春が過ぎて随分と春らしくなってきたなと思っていたら、今日はお昼にあられが降りました。あかつき屋横の駐車場には、丸い粒のあられが広がっていました。冬は峠を越えたようですが、気候は一進一退のよう。まだ寒い日が続きそうです。
そんな中、友人の華道教師のKさんがあかつき屋に来てくださり、花を生けて下さいました。小手毬(こでまり)などをあしらった生け花は、早春の雰囲気を醸しだしていました。
(駐車場の路面に広がったあられ)

今冬は、雪が路面から消えることがなかったため、よく雪かきをしました。今年はその上、水を使う台所仕事も加わったため、手が荒れ気味になり、初めてハンドクリームのお世話になりました。その甲斐あって、手荒れはすぐに直りましたが。
立春が過ぎても、季節は一直線に春に向かうものではないですね。今日は、みぞれ混じりの雨やあられが降り、肌寒い一日に。まだまだ厚手のジャンパは手放せそうにありません。
(春の花を生けて下さるKさん)

その中で、ありがたかったのは、Kさんが上がりの間に花を生けて下さったこと。今回は、重厚なお正月の花と違って、明るく開放感のあるものにと、花材には、小手毬のほか、スカシユリやトルコキキョウ、オクロレウカ、アイリスを使われました。
淡く軽やかな色合いが、春の息吹を感じさせてくれます。
Kさんは、トイレにも花を生けて下さり、ここでは、スイートピーやネコヤナギ、カーネーションなどを織り交ぜて、「思いっきり明るく春を強調」(Kさん)して下さいました。
生け花は、今週末にお越しになる数組みのお客様をさわやかに迎えてくれそうです。
Kさん、ありがとうございました。
雪が一段落した本日午後、あかつき屋から歩いて香林坊大和に出かけました。その日は、8階催事場で毎年恒例の「有名駅弁とうまいもの大会」が開催中。中に入ってみると、全国各地の自慢の駅弁が実演販売されており、どれも食欲をそそるものばかり。一通り会場を巡った後、小樽の駅弁を買い、夕食で頂きました。
(「有名駅弁とうまいもの大会」の会場)

実演販売されている主な駅弁は、函館本線(森駅)の「いかめし」や、宗谷本線(稚内駅)の「カルビ&ホタテ」、九州新幹線(新八代駅)の「鮎屋三代」、奥羽本線(米沢駅)の「米澤牛焼肉重」などがあり、北陸本線からは鯖江駅の「焼鯖寿し」が今回初めて登場していました。
(小樽駅の駅弁「海の輝き」)

どれにしようか、すごく迷いました。胃袋は一つしかないし、財布とも相談しないといけないし、などと独りつぶやきながら巡っていると、小樽駅の駅弁の売店の前で、女性が「私(イベント開催中に)これ2回も買ったんよ」とおっしゃいます。
それは、「海の輝き」(1,260円)というお弁当でした。どうも小樽駅の人気商品らしいのです。店員さんが、内容を説明して下さいました。
「中には、いくらや、うに、とびっこ、というししゃもの卵のほかに、しいたけ、れんこん、きゅうりが入っています。おいしいですよ」
さっそく帰って食べたところ、うにや、いくらが調度良いバランスで盛り付けられており、とても食べやすく、美味でした。
よく、うに丼やいくら丼などを食べると、これでもかというくらいに、うにやいくらがのっているため、正直しつこく感じることがあるのですが、この海の輝きは、それらがほどよい分量のため、食べやすかったです。しいたけやれんこんもヘルシー感を与えているようです。
この駅弁大会は2月7日まで開かれているとのことで、時間があれば買いそびれたものを求めに再び足を運んでみようと思います。
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