あかつき屋のお風呂場・洗面所棟の屋根瓦の葺き替えを行いました。不具合があった訳ではないのですが、老朽化もあり、先日の水回り工事を行ったことから、合わせて実施した次第です。
この日、瓦屋さんが朝から工事作業に入りました。そのお仕事ぶりを見させてもらったのですが、瓦の葺き替え一つとっても現代の工法があり、感心しました。
(真新しくなったお風呂場の瓦屋根)

屋根は、そんなに広い面積でないので、作業は職人さん一人で行われました。まず、古い瓦を取り除いた後、何枚もの四角い板を貼り合わせた屋根の下地を確認。問題は、なかったようでした。
続いて、その上にベニヤ板を貼りつけました。その後の工程が、大変興味深かったです。職人さんは、ベニヤ板の上に、特殊な材質で作られたシートを貼ったのです。こうすれば、屋根の気密性は強化され、雨漏りは100%しなくなると思いました。
(ベニヤ板の上に特殊シートを貼りつける)

(その上に瓦一枚一枚丁寧に取り付け)

最後にシートの上に、真新しい瓦を一枚一枚取り付けていきました。瓦は単純にシートの上に載せていくのではなく、きっちりと嚙み合うように、必要であれば周りを工具で削り取って、形を整えていました。その甲高い金属音が、辺りに響きました。
出来上がった瓦屋根は、黒光りし、まさに新品。ふだん下からは見えないものですが、気分は随分と変わりました。
絶えず、安心、安全と快適性を追い求めるお宿あかつき屋。さらに一つ進化したと言えるでしょうか。
スポンサーサイト
かつては当たり前だったのに、妙に懐かしく、新鮮に感じる光景と出会いました。あかつき屋の客間に備えてある年代物の鏡台が傷んだので、建具職人さんに直してもらったのです。職人さんは、かんなや、のこぎりなどを手慣れた様子で扱い、鏡台を元通りにして下さいました。
昭和一桁生まれの国登録有形文化財のあかつき屋。建物だけでなく、そこに納まる家具や建具も、当時を伝える遺産として貴重で、鏡台がこのように職人さんの手で、再び息を吹き返したことで、心中は充足感で満たされました。
(材木町にある福岡建具工業さん)

今回修理してもらった鏡台は、以前にここにお住まいになっていた家主の女性の方のもので、あかつき屋が町家のゲストハウスとして開業するに当たって、譲って下さいました。その方は既に他界されましたが、この鏡台は少なくとも80年は経過していると思われます。
この鏡台、さすがに寄る年波に勝てず、最近鏡台の土台と鏡を固定する支柱との接続部にぐらつきが出始めたので、建具屋さんに直してもらうことにしたのです。
修繕は、あかつき屋の網戸などを作って下さった福岡建具工業さんにお願いしました。福岡建具さんは材木町にあり、あかつき屋のお客さんとよく出かけるパン屋の森長さんまでの通り道にあります。
(昭和時代の製造か、年代物の鏡台)

(鏡台の修繕に当たる職人さん)

ここにお越しになった職人さん。鏡台の構造についてはすぐに合点がいったようで、支柱などの部品がぐらついた部分の隙間を埋めるために、手際よく木材を削って作った薄板をはめこみ、支柱が不安定にならないように、固定して下さいました。
(縁側の引き戸も直してもらいました)

合わせて、2階縁側の引き戸にも、開け閉めに不具合があったので直してもらいました。どうも戸車が不安定になっていたようです。これも、大工道具などを使い、正常な状態に戻して下さいました。
職人さんが木材にかんなをかけたり、金づちやのこぎりを扱う様を見たのは、いつ以来でしょうか。コロナ渦もあって、オンラインやリモートが時代を制するような勢いの中にあって、職人さんが私の目の前で繰り広げられた手仕事は、インパクトがあり、ついこないだだったような、昭和にタイムスリップした感覚になりました。
この家の前のオーナーさん、鏡台や黒ダンス、足踏みミシンなど年代物の家具類は、引き続き大切に守っていきます。
日々町家(町屋)での営みを続け、様々な人と接していると、いろいろと学ぶことがあります。今回は、金沢市菊川1丁目で表具店を開く瀬田良三さんから、和室に用いられる戸について教わりました。
瀬田さん「同じように見えても、戸には、いくつも種類があるんですよ」。
表装された戸を簡単に襖(ふすま)と言ってしまいそうですが、瀬田さんによると、そうではなく、戸にはめこむ障子や桟の位置、形状によってそれぞれ名前があるのだそうです。
「町家も奥の深い世界だなー」。そんなふうに思いました。
(和室の戸について説明される瀬田さん)

瀬田表具店さんには、あかつき屋に年に何回か来て頂いています。主に障子戸の貼り替えです。今回も年が明けたことを機会に2階の障子戸を貼り替えました。
瀬田さんのお店を訪ねました。瀬田さんは、和室の戸には、いくつか種類があることを手描きのデッサンを示しながら、説明して下さいました。
それによると、戸に収まる障子の位置や、障子が貼られる木の桟の間隔などによって、それぞれ呼び方があるとのことでした。
その詳細は、以下の図の通りです。
(瀬田さんが描いて下さった数種類の戸のデッサン)

瀬田さんは、あかつき屋のコミュニティルームにある折部(おりべ)はもうほとんど製造されなくなり、見かけなくなったと、説明されました。貴重なものなのですね。
(このお宿のコミュニティルームにある「吉原」)

「吉原」という艶っぽい名前の戸もあります。これもあかつき屋では、同じコミュニティルームと2階の客間にあります。
あまり意識せずに見ていた戸も、名前を知ることによって、その建具としての特長や歴史をも知ることができるようです。お客様には今後、この建物のみならず、今回教わった戸についてもご紹介させて頂こうと思います。
(前回のつづき)
あかつき屋にご宿泊中のオーストラリアからのお客様のリクエストにこたえるため、26年ぶりに加藤人形店さん(金沢市割出町)を訪れた私。図らずもそのお店の84歳になるご主人から、いろいろとお話をうかがう機会を得ました。
ご主人の加藤清さんは、オーストラリアからお越しになったケイティさんの三人のお孫さん用の名札に、それぞれの名前と生年月日を毛筆で書き上げた後、問わず語りにご自身のお仕事のことや、店のことなどを話して下さいました。
(木の板に毛筆で名前を記す加藤さん。生粋の職人さんです)

このお店は、三月の桃の節句には、ひな人形、五月の端午の節句の時季に向けては、武者人形を販売されています。そうした中で、加藤さんは経営者としてのお立場のほかに、職人さんの顔もあり、先述の人形とセットとなる木の名札に名前を書くお仕事に当たられる一方、絵師として色紙や壁掛けなどに武者や童女などの絵を描いておられます。
私たちの今回の訪問では、木の名札を求めるものだったのですが、話が加藤さんの絵の仕事にまで広がったこともあって、加藤さんは、時代装束をまとった人物を描いた壁掛けを極めて良心的なお値段で譲って下さったのでした。
(加藤さんが描いた絵を収めた壁掛けを手に持つ加藤さん・左とピーターさん)

加藤さんは私たちが、そのお仕事について興味を示したこともあってか、朴訥とお店のご商売のことなどを語って下さいました。
「昔ほど(五月)人形は売れんようになってね」。加藤さんは、ちょっぴりさみしそうにおっしゃいました。少子化の影響もあるのでしょうが、それよりライフスタイルの変化や、豪華な武者人形などは、昨今の住宅事情に合わなくなったことが、理由としてあるようです。
さらに大きな課題があります。後継者の問題です。加藤さんには、二人の子供さんがいらっしゃいますが、いずれも女性で既に嫁いでいらっしゃるそうです。
長年地道に営んできたお店を今後どうするか、岐路に差し掛かっているとも言えるようです。
でも、私たちは、加藤さんの来し方をうかがっていると、そのご商売は絶えることなく、これからも続いていってほしいと願わずにはいられませんでした。
聞けば、加藤さんのおうちは、代々職人さんをしてこられているのでした。ご先祖は傘職人、お父さんの代では、染め物のお仕事をなさってこられたのでした。
(豪華な武者人形を背後にしてお話しされる加藤さん)

そんな手仕事職人の気風は今の加藤さんからも十分感じられるもので、木の板に名前を毛筆で書いているご様子は、真剣な中にもどこか楽しそうにも見えました。
色紙などに描かれた絵も、おおらかで明るく、見ていて楽しい気分になりました。
ただ、この世界もご多聞に漏れず、機械化の波にも翻弄されているのでした。木の名札に記す名前などは、現在手書きすることはほとんどなく、コンピューターなどでこぎれいに記す時代になったのでした。その台もプラスチックを使ったモダンなものにとって変わりました。
長年日々こつこつとお仕事されてきた加藤さん。その生粋の職人さんが26年前に、名札に精魂込めて書き上げた息子の名前が、今いっそう存在感をもって見えました。
一年で最も気温が低くなる「大寒」。この時季がもってこいであると、ある作業をされる職人さんがいらっしゃいます。
金沢市菊川町の瀬田表具店さんでは、毎日の仕事で使う「水」を大量に水道から汲み、備蓄されているのです。
「寒の水は腐らず、長持ちするんやは。この仕事には欠かせません」と瀬田さんは2㍑入りのペットボトルに60本ほど水を蓄えられました。
(寒の水をペットボトルに蓄えられた瀬田さん)
瀬田表具店さんは、金沢町家であるあかつき屋が2年余り前、開業前のリニューアルに当たって、障子やふすまなどを張り替えてもらったところ。
その際、表具屋さんの仕事などをいろいろと教えてもらいました。
(表具の作業で使う糊。水は重要です)

表具屋さんはふだん、障子やふすまの張替え、掛け軸の修復などを行っていますが、その作業では、決まって糊(のり)を使います。その糊を溶かすのが水で、糊の粘り気をちょうど良い具合にするには、水は重要になってきます。貼る物によって、糊の濃さが異なり、その調整をするのが、水です。
「腐った水を使うと、糊がべちゃべちゃになり、紙にくっつかなくなる」と瀬田さん。その点、寒の水は腐らず(雑菌が繁殖せず)、とても仕事がしやすいのだそうです。
そして、仕事の要となる水は、大寒の頃に水道水から一気に汲み上げ、ペットボトルに蓄えておくのです。
(ペットボトルに水道水を入れる作業)

(水でいっぱいになったペットボトルは、段ボール箱に入れて保管します)

この日は朝9時半頃から、瀬田さんは中学三年生のお孫さんとともに2㍑入りのペットボトルに水道水を入れる作業に当たり、2時間ほどで60本分を詰め終えました。
この後、表に水を汲んだ日付を記した段ボール箱にペットボトルを詰めて、地下室に保管しておきます。この水は3年はもつとのことです。
年中行事とも言える大寒の水の備蓄を終えて、瀬田さんはほっとした表情。しばし雑談しましたが、瀬田さんは「こうしてとっておいた水は、災害が起こった時に飲み水としても使えるんやは」と水は防災の役目も果たすのだと、笑顔を浮かべながら話されました。
| ホーム | 次のページ